2021年5月29日、マダガスカルの在来信仰の聖地であるドゥアニ(王霊・精霊祭祀の社)の社殿が、また、火事で焼けた。私もよくお世話になっているドゥアニ・マハザザである。社殿4つのうち、2つが焼け落ちたという。今のところ、失火なのか放火なのかは不明だ。
今回、火災に見舞われたドゥアニ・マハザザには、以下のような思い出がある。第二次世界大戦の「マダガスカルの戦い」で戦没した日本兵の慰霊のために、山口県の神社の神主さんたちが2015年にマダガスカルを訪れた際、私もガイド役で同行した。その際、私は神主さんたちを、ドゥアニ・マハザザにご案内した。神主さんたちは、ドゥアニの祭司に迎えられ、ドゥアニ・マハザザを「正式参拝(昇殿参拝)」した。神主さんたちが参列する中、ドゥアニ祭司による祈祷も行なわれた。ここドゥアニ・マハザザは、「日本の神社」と「マダガスカルのドゥアニ」の「宗教間交流」が行なわれた、私にとって思い出深いドゥアニなのである。
最近、イメリナ地方(アンタナナリヴ州に相当する地域)のドゥアニへの放火・不審火が相次いでいる。ここ5年ほどで、ドゥアニ・アンブヒジャチムの社殿は2回も放火され(やっと再建したと思ったらすぐに放火された)、3度目の社殿再建後も、ドゥアニ周囲の森が不審火で焼けている。数年前にはドゥアニ・アンブアタニの風情のある社殿も放火され、以前より少し「ちゃっちく」なった社殿が、ドゥアニ信徒の寄進により再建された。私が滞在していた聖地マンガベのドゥアニは、コンクリ・石造りの社殿のために放火は免れているが、昨年、ドゥアニ周囲の森が不審火で焼けたばかりだ。現地でドゥアニの祭司たちに話を聞くと、近年多発しているドゥアニへの放火は、最近急激に勢力を増している「キリスト教セクト」(原理主義的なキリスト教の新興宗派)の過激派信徒の仕業ではないかと考えているようだ。
近年、イメリナ地方の聖地に、新たに社殿が建立される事例が増えているが、そういった新築の社殿はコンクリ・石造りであることが多い。今後もドゥアニ社殿を狙った不審火が続くようならば、「歴史と伝統のあるドゥアニ」でも、憑依霊(祭祀対象)の許可が下りれば、木造ではなく石造りの社殿に建て替えられていくこともあるかもしれない。
ドゥアニ・マハザザの火災を伝える現地報道記事
ドゥアニ・マハザザを巡礼するレユニオン人の信徒集団(火災前)(筆者撮影)
ドゥアニ・マハザザを訪れた日本の神社神職たち(火災前)(筆者撮影)
ドゥアニ・マハザザで昇殿参拝し、祭司の説明を聞く神社神職ら(火災前)(筆者撮影)
放火される前のドゥアニ・アンブヒジャチムの社殿(筆者撮影)
放火された後のドゥアニ・アンブヒジャチムの社殿(筆者撮影)
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